向日葵の天秤が傾く時
「何で衢肖さんの言葉を疑うんだよ!」


「っ…!」



らしく無かった。


弁護士になる為にがむしゃらに頑張って、今も一人前になる為によそ見なんかしたく無かった。


そんな暇だって無い。



だけど。



「俺自身の意思で信じるだけだ。」



抱き締めたいという衝動が抑えきれなかったのは、過去を知ったという理由だけでは無いはずだ。



「たか、むらさん…」



当然のことのように言う卿焼の言葉が嬉しかった。



「………ぁ、ごめんっ…!何やってんだ、俺……」



耳元で巫莵の声が聞こえたことで、自身の行動に気が付いた卿焼は慌てて体を離し背を向けた。



「もうしない、もうしないから……ってか、そういう問題じゃない…!」



戸惑いが駆け巡る頭を掻いた後、片手だけでも手摺を握り落ち着こうと試みる。



気遣いだけが見え隠れする背に、巫莵は。



「…!」


「少し、少しだけ…、このままで、いい…ですか?すぐ、離します、から……」


「ぁ、ああ……」



重ねられた手から伝わる小刻みな振動と弱い力は、気のせいなんかじゃないから。


微かに聞こえる泣き声が止むまでそうしていた。
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