強引上司にさらわれました
新郎、奪われる


重厚な鐘の音が、二月中旬の澄みきった真冬の空高く響き渡る。
天使の舞うステンドグラスからは光が燦々と降り注ぎ、白で統一された教会の中は、まばゆいほどに輝いていた。

私、麻宮泉(あさみや いずみ)は、二年間の社内恋愛の末、元木達也(もとき たつや)と本日めでたく結婚する。

社内恋愛の舞台は、海外にも事業拠点を置く大手の玩具メーカー【フロスティアベニュー】。
年商五千億円、従業員数は二千人ほど。
このところはスマホのアプリにゲーム市場は圧迫されているものの、八十年から九十年にかけて家庭用ゲーム機器で飛躍的に業績を伸ばし、数年前に大ヒットした“恐竜ウォッチ”で、幼児向け玩具を大流行させた。

私はそこの人事部人材開発課に所属している。
新卒で入社して、間もなく丸六年になるところだ。

達也はトイ戦略室で国内玩具流通に関わる全般的なサポートをしている。

同じ年に入社した彼とは、酔った勢いで一夜を共にしたことがきっかけだった。
誉められるような始まりではなかったものの、もともと気の合う友人だったこともあって、友達の延長のような恋人関係になった。

彼は、上司や後輩からの信頼が厚く、面倒見もいい。
優しい上に仕事もできる。
恋人として申し分のない相手だった。

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