「ちょっと待ってて」

私はそう言って教室を飛び出した。向かったのは女子トイレでそこの蛇口から水をだしてハンカチを濡らした。


「はい。赤くなってるから冷やして」

教室に戻るとそれを鮫島に渡した。

「痛くないからいいよ」
「ダメ!」

私は無理やり鮫島の頬にハンカチを押し付けた。

あとで怪我したとか言われても困るし、叩いた手のひらが今もジンジンするから鮫島の頬もきっとそう。


「急いでトイレに行ったからずっと我慢してたのかと思った」

「バカじゃないの」

「はは」

……あ、笑うと意外に可愛い。いや、それは置いといて女の子にトイレ我慢してたとか言っちゃダメでしょ。だから誤解されるし怒られるんだよ。


「松永さんって優しいんだね」

濡らしたハンカチが生ぬるくなった頃、ようやく私は鮫島の頬から手を放した。


「べつに優しくないよ」

そんなことより早く帰らなきゃ。

環奈と優が戻ってきたら一緒に帰ることになるし、どうせ委員会の話とかされても私は分からないからかやの外だし。

急いでカバンを取ろうとした時、鮫島が私を呼び止めた。


「さっきのこと誰にも言わないからさ……」

さっきのこと?私が鮫島を叩いたこと?環奈の名前を消したこと?それとも優が好きだってこと?

どれにしても私には都合が悪い。しかもなんだか鮫島はまだ何かを言いたそうな顔をしてる。


「な、なに?まさか口止め料とか取る気?」

「じゃなくて」

なかなか言わない鮫島にイライラしつつ私は時計を気にした。

どこからか椅子を引く音がして、バタバタと上の階で足音が響いてる。……委員会が終わったんだろうか?早く、早く……。


「俺と友達になって」

焦る私とは裏腹にそれはゆっくりと耳に届いた。


「は?」

聞き間違いだろうか。強めに聞き返してしまったけど。


「だから俺と友達になってくれない?」

小さい頃から一緒にいる人は決まっていた。だからそれ以上の友達は必要なかったし求めてもこなかった。

だけどこんなにも真っ直ぐに私と友達になりたいと鮫島は言う。

……やっぱり鮫島はヘンな人だ。