授かり婚~月満チテ、恋ニナル~
『見チャッタンダヨネ』
オフィスのデスクに着き、ほんのちょっと顔を上げて、右斜め前に視線を向けるだけで、そこに彼がいる。


サラッとした少し長めの焦げ茶色の前髪。
伸びてきて少し邪魔なのか、目元にかからないように首をやや斜めに傾ける仕草は、癖なのかもしれない。
片手が空いている時は、だいたいいつもデスクに頬杖をつき、薄い唇をキュッと真一文字に結んでいる。


パソコンに向かって真剣に仕事をしている時は、いつもわずかに眉を寄せ、皺を刻む。
これもきっと癖なんだろう。


だけど、取引先と電話している時や同僚と話をしている時は、切れ長の目元が柔らかく細められ、その目尻がちょっと下がる。
爽やかで明るく、人懐っこい笑顔。


それが私の憧れの先輩……来栖稜太(くるすりょうた)さんの、一番のチャームポイント。
こうして眺めているだけで、私はいつも元気をもらえる。


仕事の集中が切れ、ついぼんやりと視線を向けていた時、今年の新人の女の子から電話を取り次がれ、来栖さんの手がデスクの上の卓上ホルダに伸びた。


「お待たせしました。来栖です」


PHSを取り上げる長く筋張った指。
ハキハキした明るいテノールの声が、私の耳をもくすぐる。
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