江戸のうどん屋で働き始めました
彼女の居ない場所
◇◇◇


普段はキラキラと輝く川の水面も、今日のようにどんよりと曇っている日には、鈍く冷たそうだ。


雅春は、橋の欄干に手をかけながらぼんやりとそう思う。




美弥がいなくなってから一月が経つ。

あの日以来、雅春は毎日こうして川を眺めながら、何をするでもなく一日中物思いに耽っていた。



何が正解だったのだろうか。自分はどうしたら良かったのだろうか。

無理にあの男に接触しようと考えたのが間違いだったのか。

彼女をもっと見つからない場所に置いておくべきだったのだろうか。


答えの出たところで仕方のない自問を何度も何度も繰り返す。



そして、嫌でも蘇ってくる、彼女が消えたあの瞬間。

もう少し…もう少しで届きそうだったのに、この手が触れる直前に、彼女は何かに飲み込まれるように消えた。


隣の男もまた、憐れむような目で一瞬雅春の方を見た後に、美弥と同じように消えた。


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