オオカミ専務との秘めごと
雲上の領域


翌朝、新聞配達を終えてすぐ店長に仕事を辞める話をする。

大神さんに『新聞屋は、あと一日だけだ』と、くぎを刺されているのだ。


「菜緒ちゃん。それ本当なの?」


信じられないといった感じの潤んだつぶらな瞳が私を見つめてくるから、胸に熱いものがこみ上げてくる。


「はい。会社の重役さんに、復業してることがバレてしまいました。だから、その・・・急ですみません」


配達中からずっと考えていた言葉をきちんと言おうと思っていたのに、どうにも声が詰まってしまう。

朝とは呼べない時間に起きて、雨の日も雪の日も元日も休みのないこの仕事はとても大変だったけれど、店長は私の事情を理解してくれて、働きやすいように心を配ってくれた。

雪が降って配達が遅れるときは、みんなに内緒で手伝ってくれたりもした。

私が元気がないとき、トンチンカンなことや冗談を言って、心を和ませてもくれた。

ここには、いろんな思い出がある。


「菜緒ちゃんがお嫁に行くまで面倒を見るつもりだったのにー。残念!すごく残念!」


店長が手をぎゅっと握ってくれて、そのあたたかさが伝わってくる。


「今までありがとうございました」


塚原新聞店には、店長には本当にお世話になって、こんな形で辞めることになるなんて、ものすごく心苦しい。

“バレたから”ではなくて、もっといい理由で辞めたかったな・・・。


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