隣の部屋と格差社会。
お嬢様、籠の外へ。



佐渡さんだ。


佐渡さんがここに居る…。


ピシッとスーツを着こなして、凛と立つ姿は区役所で初めて会ったときのことを思い出す。


声を聞いて、顔を見ただけで涙が出そうだった。

ずっと心にかかっていた霧がすーっと晴れていくよう。

たった5日会ってないだけ。

今までだって、そのくらい顔を合わせないこともあったのに。


なんでだろう。もう何年も会ってなかったように感じるのは。


いつだって、佐渡さんは居て欲しいときに現れる。


それは、仕事で失敗したときやお見合いの帰りもそうだった。


ぼやけていく視界の中でしばらく佐渡さんを見つめて、気づく。


あれ、なんでこんなところに佐渡さんが居るんだろう。


最初に思い至るべき疑問が、嬉しさのあまり今頃になってしまった。


その理由を考えるよりも先に身体が動いていた。


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