【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

番外編

 
 ――闇夜を広げたような城の中では、橙に揺らめく灯が星空のように天井を彩っている。
 
 一際小高くなった階段の上には歴史を感じさせる威厳のある王座が鎮座しており、そこに長い脚を組んで座っている青年に注がれる眼差しは代々この国の王に向けられるそれとはまったく真逆のものだった。

「今宵の我が王は麗しくていらっしゃいますわっ」

 ヒールの高い靴に悩ましげなボディラインに薄布を纏った妖艶な女たちが、うっとりするような眼差しで王座へすり寄る。

「女に興味はない。下がれ」

 いつもの王と違う威厳のある口調に品のある長い銀髪を高く結った彼は、長い立て襟の漆黒の衣に身を包み、不機嫌そうに肘をついて目の前の女を見下げた。

「ああんっ 美しいぃいいっ!! 美しすぎるわっっ! 永遠にキュリオ王がいいっ!!」

 冷たい言葉を浴びせられたにも関わらず、悩まし気に悶えた女たちは恍惚の眼差しで麗しの王を見つめる。

 悠久の国とは何かが違う。
 永遠に日の光が照らすことはないこの国には大きな月が絶えず夜空に輝いており、黒と紅を基調とした色が広がるこの古城に仕えるのは妖艶な男女のヴァンパイアたちだ。

「……くだらない」

 そっぽを向いた銀髪の王の横顔はまさに美の化身との噂に違わぬ美しさを誇っている。
 意志の強い眼差しにシャープなフェイスラインと整った目鼻立ち。そして引き結ばれた薄い唇は彼の硬派な人格を現したように固く閉じている。

「キュリオ王が我が王になってくだったからにはこの国も安泰を約束されたようなもの。心より感謝申し上げます」

 紳士的な言葉使いに、敬いながら頭を下げた男のヴァンパイアはこう続ける。

「この国は、悠久への未練を断ち、この国の王座に御就きくださったキュリオ王のいかようにも……」

「……」

 男ヴァンパイアのその言葉耳にしたキュリオは、横を向いたまま凍えるような眼差しを眼下のヴァンパイアらへと放つ。

「……存在価値のないヴァンパイアを生かすも殺すも私次第ということだな?」

「……っ……」

 五大国、第二位のキュリオ王の言葉に集ったヴァンパイアたちはゴクリと唾を飲んだ――。

< 111 / 168 >

この作品をシェア

pagetop