【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

異様な力の謎

「悠久の民のなかでも治癒の力を持つ者はかなり少ないが存在はしている。問題はその力で他者を癒せるかどうかが大きなポイントでね。
例え治癒の力を持っていても、己のみを癒すことしかできない者がその大部分を占めているんだ。なぜか? それはやはり自分の肉体だからだ。他者を癒すには、自身とは全く異なる別の個体を修復するため、さらに高度な力が必要となるのさ」

「…………」

 その話を聞いているだけで、万物を癒すキュリオが如何に人間離れしているかがわかる。出会ったこともない民や動植物、空や大地を癒し浄化するなどもはや神ではないのだろうか?

「君ならばそろそろわかるはずだ。
何故アオイがその理(ことわり)の向こう側にいると私たちが考えているのかを」

 キュリオの眼差しが再びアオイへと注がれる。
 その瞳は哀愁の色が漂っており、自身の中で解せない不可解な部分を口にしたことで感情となって現れてしまったようだ。

「うむ。キュリオ様のおっしゃる通りじゃ。
姫様は恐らく治癒の魔法を使われたのじゃろう。ラビットを助けたい一心で……無意識にじゃろうな。手の平から光があふれれば、姫様の手の怪我は治られているはずなんじゃよ」

「光に触れたら……影響が……」

 大きく目を見開いたダルドの驚きを見るからに、キュリオとガーラントが頭を悩ませていた事情を理解できたとみていいだろう。
 しかし、例外というものはいつの時代もあまり良い結果に結びつかないことを彼らは重々承知しているため、例外ではない理由を探そうと膨大な知識を何度も巡らせているのだ。

 すると、ダルドが専門分野外の術者らしい素朴な質問をふたりへ投げかけた。

「……アオイ姫の癒しの光が手からじゃなかったってことはない? そもそもなぜ手から魔法がでるのかも……僕にはわからないけど」

「そうでしたな。ダルド殿は魔導書を使われますゆえ、そう思っても何ら不思議ではないのですじゃ」

「なぜ手からかと申しますと、やはりコントロールがしやすいのですじゃ。
術者によっては指先であったり杖であったりするのですが、みな同じ理由からですな。キュリオ様ともなれば御体のどこからでも可能じゃが、姫様は恐らく初めて魔法を御使いになられた。やはり手以外は考えられないじゃろうな……


「……そうなんだ。深く考えたこともなかった」

 ガーラントとダルドの声を遠くに聞いているキュリオ。彼の空色の瞳はアオイへと向けられたまま先ほどから戻ってこない。

「…………」
 
(……何故いつもアオイばかりが、このような目に……)

 アオイに対する愛情が深いばかりにキュリオの心配は尽きない。そしてこうなってくると嫌でも思い出す<初代王>の言葉の数々。


"運命を変えるのは容易ではない。それが天命であれば尚のことだ"


(これもすべてアオイの天命だというのか? 自身を癒せず、他者を助けるためだけの力など――!!)

 愛娘を案じるばかりの彼の心に渦巻くのは、異様な能力に対する悲しみや憎しみに似た感情だった。
 恐らく悠久の歴史において、アオイのような能力者は皆無に違いない。前例が無いだけに、彼女自身に良からぬ作用があるのではないかと考えたキュリオの行動は、間もなく行動に移されることとなる。


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