【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

世界の謎

 少しの寂しさを覚えながら、ふぅ……と深呼吸を繰り返したキュリオは優しくアオイを抱きしめながら言い聞かせるように呟く。

「大丈夫だアオイ。お前に免じて今宵はなにもしないと誓おう」

「……ふぇ、……ひっく……」

 純真無垢なこの娘が流す涙を見るのは何度目だろう。
 彼女は自分の欲のために涙を流すのではなく、他を思いやる心が涙を溢れ出させているのではないかとキュリオは考えるようになる。

「私の気が変わらぬうちに失せろ」

 赤子を抱いて現れたキュリオが指を軽く弾くと、ヴァンパイアの王を拘束していた術は一瞬にして消え去った。
 激しく尻餅をついたティーダは恨めしそうにキュリオを睨むが、涙をためた赤子の瞳が悲しそうにティーダを見つめており、彼女の涙に弱いのはキュリオだけではないことをティーダは痛感させられる。

(……クソッ!)

 締め付ける謎の胸の痛みに耐えながらティーダは己の城を目指す。それはマダラに受けた傷の後遺症でもなければキュリオに何かされたわけでもないことは自分自身が一番よくわかっていた。

(俺に見せる顔はいつも泣き顔ばかりだな……)

 柄にもなく俯き加減のティーダが帰城すると、にこやかな笑みを浮かべた長老らしき人物が迎えにでて人気(ひとけ)のない通路を半歩後遅れて歩く。

「お帰りなさいませティーダ様。今宵はマダラ王のもとで朝を迎えられるかと思っておりましたが……」

「気色悪い言い方すんじゃねぇ。夜行性なのはアイツだけなんだよ」

「ですが、今宵のティーダ様には悠久の王の清らかな香りがついております故、どちらが本命なのかと勘繰ってしまいましたぞ!」

「…………」

 鼻の利くヴァンパイアに嘘をつくのは困難だが、面倒くさい経緯を説明して笑われるのも癪だと判断したティーダは否定もせず不機嫌そうに王座へとドカッと腰を下ろす。
 マダラの言葉とキュリオの視線、そしてアオイの悲しそうな瞳とがグルグルと頭の中を駆け回り、考え事が苦手なティーダの思考をこれでもかと振り乱す。さらにアオイへと抱いた複雑な想いが混ぜこぜとなったそれらは酷く質(たち)が悪く、吐き出してしまわなければ脳が破裂してしまいそうなほどの影響を及ぼす錯覚を覚えたティーダは独り言のように呟いた。

「なぁ……ヴァンパイアの王の力ってなんなんだ?」

「……ほ?」

 
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