新生児マス・スクリーニング―赤ちゃんの命を救う話を、ドクターから聞きました―
ニューヨークでの臨床例

「ときどき警察に頼みますからね」



アメリカには移民が多い。


特に、小石川先生が住むニューヨークは「人種のサラダボウル」と呼ばれる町だ。



「人種や民族が違えば、かかりやすい病気や特有な遺伝病が違ってくるんですよ。風土病というものがあるでしょう? 例えば、アフリカの地中海沿岸などに多い鎌状赤血球症」



「丸いはずの赤血球が変形してしまって、酸素を運べなくなる病気ですよね? 遺伝するタイプの生まれつきの病気で、症状がひどい場合は成人できないケースが多いって」



「そうです。この悲惨な病気の遺伝子が、なぜアフリカなどの特定の地域にだけ極端に多く見られるかというと、鎌状赤血球症の患者がマラリアに強いからなんです。


風土病や人種に特有の病気は、こういう理由で存在するんですよ。日本人に特有な病気もあります」



「日本人に極端に多い対人恐怖症も、遺伝性の何かがあるかもしれないという記事、最近ウェブで見掛けました。


人種差別はナンセンスだけど、人種特有の何かがあるのは事実なんですね」



「ええ。だから、祖先がアフリカの地中海沿岸からニューヨークにやって来た、という家系の赤ちゃんを検査すると、鎌状赤血球症であるケースがまま見られるんです。


世界中からの移民が集まるニューヨークの病院では、どの人種の遺伝病もカバーできるように、新生児マス・スクリーニングのチェック項目が多くてね」



「何種類くらいの病気についてチェックするんですか?」



「現時点で、50種類くらいあります。今はまだ検出方法がわかっていない病気もたくさんするので、検出方法が発見され次第、また増えると思いますよ」


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