LALALA
ラララ
ハミングが聞こえる。

窓を開けたら、つんとするほど新鮮な青葉の匂いと一緒に、風に乗って聞こえた。音程がときどき外れた、音痴な鼻歌。


「~♪」


ザッ、ザッ、ザッと箒ではく音に紛れて聞こえるその歌は、なんの曲なんだろ。誰もが知る有名な曲ではないと思う。
酔っ払いの千鳥足みたいな、適当くさくて上機嫌なメロディー。


「はあ…もう朝か」


テーブルに頬杖をついていた私は、独り言を呟き、テーブルの上に転がったビールの空き缶を持って立ち上がる。三本を順番に流しですすぎ、ぺしゃんこに潰した。

寝不足で辛いけど、今日は職場に行かなきゃならない。

洗面所で、隈を隠すためにいつもより濃くコンシーラーを塗って、長い髪を後ろで緩めに束ね、刺繍糸で作ったすみれ色のタッセルのピアスをつける。

部屋を出るとき、最後に空っぽのベッドを見た。

玄関を出て、階段を下りていくと、さっき窓の外から聞こえてきた鼻歌のボリュームが上がった。
二階建てのアパート。一階は貸し店舗になっていて、理容店とカフェが入っている。

私がその理容店の前に差し掛かると、まるでストップボタンを押したかのようなタイミングで、ぴたりと鼻歌が止んだ。


「おはよう、季里ちゃん」


塵取りでゴミを集めていた芝崎さんは中腰のまま、朝日に逆光になった私を眩しそうに見上げた。

無精髭、目尻に皺、天パなのかお洒落パーマなのか定かではない、男性にしては長めの髪を、ちょんまげみたいに結んでいる。
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