赤い花、散らさぬように
赤い花、散らさぬように



俺の仕事場にはお嬢様がいる。



正確には違うのだが、気難しい社長の大事な大事な一人娘、みたいなものだ。


夕暮れ時、赤いスカーフのセーラー服を着た彼女は、鈍く黄金が光る豪奢な門を、今日もその細い腕で開いた。



「お帰りなさいませ、お嬢!!」



長い石畳の玄関前、二列に並んだ厳つい風貌の男たちが、一斉に頭を下げる。


お嬢と呼ばれた少女は、彼らを見て小さく苦笑いした。



「た、ただいま……。いつもお出迎えありがとう、みんな」



もう何年もこの恒例の出迎えを繰り返しているはずなのに、彼女は未だに『ありがとう』を欠かさない。



俺は他の奴らと同じように頭を垂れながら、藍色のスカートから伸びる白い足がゆっくりと歩いてくるのを、そっと見つめる。



その足が目の前でピタリと止まって、頭上から「紘之(ひろゆき)さん」と呼ばれると、俺は頭を上げた。




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