彼女が指輪をはずすとき
指輪に秘められた真実
私には"朝日(あさひ)"という彼氏がいた。
朝日は出会ったときから、とにかく笑顔が眩しい素敵な人だった。

彼と出会ったのは、桜の花びらが舞う季節。
私が大学へ入学した4月のことだった。
部活の勧誘が激しいこのころ、私はひとりの男性に声をかけられた。

『ねえ君、星って興味ない?』

ひとつ年上の朝日はそのとき、大学の天文同好会の勧誘をしていて、私は校門手前で話しかけられた。
その笑顔が素敵で私は朝日に一目惚れし、そのまま天文同好会に入部した。

とにかく朝日は明るくて先輩後輩同期の誰からも好かれ、新入生の私にも気さくに話しかけてくれた。

『藤堂さんは下の名前何て言うの?』

新入生歓迎の飲み会に参加したとき、偶然私は彼の隣で話す機会に恵まれた。

『平仮名で"ひかり"です』

『藤堂さんにぴったりの綺麗な名前だね。これからは"ひかり"って呼び捨てで呼んでもいい?』

『はい』

私がそう言うと、"やった"と言って彼は嬉しそうに笑った。
私の顔が彼の笑顔によって火照るのがわかった。

彼にとって女の子を下の名前で呼ぶことは、当たり前で些細なことに過ぎないのはわかっていた。
実際に同好会の女の子を全員下の名前で呼んでいたし、先輩にさえ下の名前に"さん"付けで呼んでいた。

それでも彼に名前で呼ばれるということは、彼に一歩近づけたようで私は嬉しくて、飲み会を終えた夜は彼のことばかり考えている自分がいた。
< 16 / 66 >

この作品をシェア

pagetop