彼女が指輪をはずすとき
私は君に囚われたまま
私は急な石の階段をゆっくりと一歩一歩踏みしめる。

今日は白い半袖シャツに膝下ほどの黒いスカート、黒のパンプスを履き髪は後ろに束ねている。
そして手には、向日葵の映える花束。

私は目的の場所に着くとその前で座りこむ。

「1ヶ月ぶりね…」

私は一人つぶやく。
"河田(かわた)家之墓"と彫られた、亡くなった朝日のお墓の前にそっと向日葵の花束を手向ける。
お墓の右側に刻まれているのは、彼の名前とそして…。

彼が亡くなってから1年4ヶ月。
今日は月命日だった。

彼のお墓の前に立つと、彼は本当にこの世にいないことを実感する。

彼が亡くなった頃はよくお墓の前に来てこんな風に座り込んで、何時間も動かなかったこともあったな…。
私はスカートに顔をうずめる。

ああ、私は一人なんだ。
まるで知らない場所で迷子になるかのように、急に寂しさに襲われた。

朝日…
自殺しようとしたあの日、朝日の分まで笑って生きようって誓ったのに。
なのに私は、朝日がいないと一人で暗闇から抜け出すことができないの。
強いふりをして、本当は誰よりも弱い。
一人じゃ寂しいよ、朝日。

涙が溢れそうになり、私は必死に涙を止めようとする。
泣いてはいけないのに。

"泣きたいときは気の済むまで泣いてください"

ふいに彼の言葉が頭をよぎる。
何でいま、あのときの三笠くんの言葉を思い出したのだろう。

"俺、藤堂さんが泣き止むまでそばにいますから"

結局彼は、言葉通り私が泣き止むまでそばにいてくれた。
泣き止んだのは午前1時をまわり、彼は終電を逃してしまった。
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