婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
彼のペースに追いつけなくても
そして、その夜。
いつもよりほんのちょっと早く帰宅した樹さんが、無言で上着を脱ぎネクタイを緩めるのを横目に、私はダイニングテーブルの上に、どう見ても二人分とは思えない大量の料理を並べた。


「……おい」

「あ、樹さん、スーツ汚れるといけないから、着替えてきてください! 私その間に夕食の準備しておきますからっ」


呆れた果てた樹さんの視線を意識しながら、私はいそいそとキッチンとダイニングを行き来する。


「おい、帆夏。俺はメシ食うとは言ってないし、それじゃなくてもなんだ? この量は」

「あ、あのっ、樹さんは早く着替えを……」

「それ以上料理持ってきても、テーブルにのらないだろうがっ。そもそも誰がこの時間からこんなに食えるんだ、バカ」

「うっ……」


そう罵る樹さんに首根っこを掴まれ、私はそれ以上はちょこまかと動いて誤魔化すことも出来なくなってしまう。


ようやく足を止めた私に深い溜め息をつきながら、樹さんは眉間に皺を寄せながらシュッと音を立ててネクタイを引き抜いた。


「……しかもなんだ? この統一性のなさ。不協和音しかしないぞ。和なんだか洋なんだかエスニックなんだか……世界各国の料理が堪能出来る食のパビリオン会場か、ここは」
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