婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
余裕を失わせる本気の恋
樹さんの意地悪に焦らされたまま迎えたその週明け。


定例会議を終え、先輩たちが会議室を後にする中、


「生駒」


片付けをしていた私は、樹さんに呼び掛けられた。
顔を上げて振り向くと、彼はまだ席に座ったまま、私に向かって手招きしている。


「は、はい?」


使った資料を片付けながら返した返事は、警戒心が滲み出て尻上がりになった。
それもこれも、ついこの間、警戒範囲外だったオフィスで、勉強会と称して意地悪をされたことを思い出してしまったせい。


会議室から出ようとしていた他の先輩たちが振り返るほどに、私の声は怯んでいたのかもしれない。


「これ。お前に頼んだ航行管理書。チェックしといたから」


だけど樹さんが私に差し出したのは、確かに私が作成した書類だった。
週末を挟んで今日の午前中まで目一杯時間を使って、お昼に行く前に提出したもの。


午後一で始まった会議後すぐに返却出来るくらいだから、もしかして樹さん、今日お昼行けてないのかも……と思いながら、私は手を出して書類を受け取った。
ペラペラと捲っただけで、樹さんが入れた赤字を数箇所見つける。
さすがに全然完璧じゃないことにがっかりしたけれど、前に比べたら格段にチェックも少ない。
私は気をとり直してまっすぐ樹さんを見つめた。
< 171 / 236 >

この作品をシェア

pagetop