婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
海風に抱かれるウェディング
たくさんの招待客たちが船内を見学している中、私は樹さんと二人で広々とした甲板を歩いていた。


冬空の下、東京湾に停泊中の豪華客船。
障害物のない広い夜空を見上げると星がキラキラと瞬いていて、真っ暗な海に光を注いでいる。


海と空の境界線が限りなく曖昧で、まるで東京とは思えないくらい幻想的な光景。
……と言うのは大袈裟かもしれないけど。


年の瀬の迫った冬の海風に晒されて、とても寒いはずなのに、私の頬はさっきから火照ったまま。
心臓のドキドキは少し治まったけど、ボーッとして寒さを意識出来ずにいた。


時折吹き付ける強い海風が、少しずつ少しずつ、私に感覚を取り戻させてくれる。
それでも私の頭の中は真っ白でフワフワしてて、樹さんが手を引いてくれていても空想の中にいるみたいで、これが現実だと信じられない。


私をここに連れ出した樹さんが、私の一歩前を歩いている。


ついさっき、二人で歓声の渦に包み込まれた。
温かくも感じ、冷やかしや妬みの声も聞いた気がする。


さっきの、なんだったんだろう……。
ぼんやり考えながら、今唯一、私のものとは違う温もりを感じる左手にそっと視線を向けた。
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