婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
意地悪な彼に魔が差したら
樹さんにとって鬱陶しいだけの私には、彼の態度はつれなくて素っ気ないけど、決して口が悪くて意地悪なだけの人ではない。


社長にはドラ息子なんて言われていても、オフィスでの樹さんは、明るく気さくで、基本的には面倒見もいい。
アグレッシブで堂々としていて、同僚からも男女問わず慕われているとても頼れる先輩だ。


今年の四月――。
新人研修の開講式で、五十人の新入社員の前で壇上に立った樹さんを一目見て、私は大きく胸の鼓動を騒がせた。


『先輩社員からの激励』で登壇した超イケメンが、社長ご子息で今年六年目の社員、『春海樹』と知って、彼に心をときめかせた新人女子は私だけじゃない。
みんなあちこちできゃあきゃあ言ってて、司会者が何度か咳払いをして静まらせるくらいだった。


そんな中、淡々と激励の原稿を読んでいた樹さんは、原稿を手元で重ねた後、ちょっと厳しい表情で新入社員を大きく見渡した。


『原稿通りに読むのはここまで。ここからは個人的に申し上げます。私はこのまま順調に行けば、望もうが望むまいが、将来的にこの会社の社長の座が用意されている立場にあります』


低い声が静かに会場に響き渡り、さっきまでざわついていた新人女子たちも、固唾をのんで壇上の樹さんを見つめていた。
会場の全員の意識が自分に集中するのを確認してから、樹さんは一度大きく息を吸って、再びゆっくりと口を開いた。
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