婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
近付く心と拭えない温度差
翌朝。
熱も下がり、すっかり体調万全の樹さんは……いつも通りつれなかった。


やっぱり朝食は食べてくれないし、話し掛けても反応を返してくれるのはだいたい半分。
だけど、スーツの背を追って玄関に出た私に、溜め息混じりに『行ってきます』と言ってくれた。


昨夜から、樹さんから初めて言ってもらえる言葉ばかり。
いくら溜め息が混じってても、そのひと言に朝から感動してジーンとしてしまった。


樹さんの方は私の反応に呆れながら、


『お前が来るまでに航行管理書チェックしといてやるから、覚悟して出て来い』


と、意地悪に水を差すことを忘れなかったけど。


出勤してすぐ、樹さんのデスクに向かった。
ダメ出しでも皮肉でも嫌味でもなんでも来い!と、けなされる準備万端の私をチラッと見遣ると、樹さんは仕事を中断して、私の前にプリントした航行管理書を滑らせた。


目線だけ落とすと、昨日の私の作業状態のまま、何箇所も赤ペンの書き込みが施されている。


「なかなかやりがいのある赤入れだったな。完成が程遠そうだね~」


デスクに肘をつき、顔の前で指を組み合わせ、チラリと私を見上げる瞳。
意地悪な光はいつもと変わらず。
本当に体調万全で、あらゆる意味で絶好調って感じ。


昨夜はついもしかして……なんて期待が過ぎったけど、『自惚れんな、バーカ』と鼻で笑われた気分だった。
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