どん底女と救世主。
「それを深山課長に伝えれば?」
「え?」
「 受け止めてくれるかくれないかは課長次第だけど、言わないで逃げてるよりずっといいよ」
課長にこの気持ちを伝える…。私が深山課長を好きって?
素直に『そうする』って言えない意気地のない私に、絵理がもう一押ししてくれる。
「あんた、一生人を好きにならないつもり?なったとしても、そうやって無かったことにするの?」
「それは…」
「いい加減、腹くくりなさいよ。このままじゃ、大事なものを自分から手放すことになるよ」
今までは傷付くくらいなら自分から手放した方がマシだと思ってた。
でも私はこれ以上、手放したくなんてない。
「私、課長とちゃんと話す」
やっとそう言うと、絵理が満面の笑みで大きく頷いてくれる。
すると、今まで黙って聞いてくれていた矢部君が口を開いた。
「そうしろ。朝起きたら隣に居たはずの女がいないなんて、男としてはショックだぞ」
「うっ…」
それは本当に申し訳ない。
黙って出て来たことは、反省してます…。
「まあ、今日は泊めてあげるから」
「ありがとう」
優しい矢部夫妻に甘えて、せっかく絵理が淹れてくれたのにすっかり冷えてしまったコーヒーをごくごくと流し込む様に飲んだ。