【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。

episode*04『——もう黙って、先輩』




わ……、酷い隈。

それに、目の腫れ方が尋常ではない。


朝起きて、鏡で自分の顔を確認し、溜息を吐いた。

これは酷い。こんな顔で、会社に行けないな。そう思うけど、休むわけにもいかない。

応急処置と化粧で、何とか腫れを誤魔化して会社へと向かった。



昨日、那月君と別れて家に帰って、泣き潰れた私。

自業自得なのに、涙はいつまで経っても止まることはなくて、一睡も出来ずに朝を迎えてしまった。

私の晴れない心とは裏腹に、陽光が燦々と降り注ぐ朝。太陽が眩すぎて、嫉妬してしまいそうだ。

唯一の救いは、明日が祝日で休みということ。なんとか今日を乗り切れば、明日リセットできる。


この気持ちを切り替えなければ、やっていけない気がした。


仕事中は、那月君のことは考えないようにした。

少しでも考えたら、また涙が溢れ出してしまいそうで、もう自分では涙腺をコントロール出来なかった。


那月くんとの関係が……こんなにもあっさりと終わるなんて。


いや違う。終わらせたのはわたしだ。後悔したってどうしたって、昨日はもう戻らない。


シャキッとしなさい、私……。

いつもより高いヒールを鳴らし、背筋を伸ばして歩いた。


****


出社してから、手元にある仕事をいつもより早いペースで熟していった。

集中、集中。


「花京院さん」


突然名前を呼ばれて、驚いて身体がこわばる。

振り返れば、そこには後藤君の姿があった。


< 38 / 220 >

この作品をシェア

pagetop