肉食系御曹司の餌食になりました

井上さんが心配そうな顔を智恵に向けている。


「もしかして昨日、徹夜でもした?
明後日の本番が終われば仕事量も減るし、有給使ってゆっくりした方がいいよ」


どうやら智恵の話は妄想だと受け取られたようで、隣で聞いていても会話に参加しない私は『やっぱりね』と思っていた。

オープンな付き合い方をしていても、誰も私達の交際に気づかないのは、やはり有り得ない組み合わせだからだろう。

いい男の代表のような支社長の隣に地味な私がいると、『仕事の話をしているに違いない』という先入観が働くのか、際どい会話も耳に入らないみたい。

いや、もしかすると、彼の輝きに掻き消されて、地味すぎる私の存在自体が見えないのかもしれない。


「もう、なんで信じてくれないのよ!」と、井上さんに心配された智恵は怒っていた。

会議室前に着き、ぞろぞろと中に入っていく私達。

会議室内には支社長がいて、私を待っていたかのように、にこやかに近づいてくる。


「亜弓さんは、私の隣の席へ」


そう言って自然な動きで腰に腕を回してエスコートするから、後ろの智恵が「ほらね!」と、息を吹き返したかのように井上さんにアピールしている。

肩越しにチラリと振り向くと、「なにが?」と首を傾げる井上さんがいて、智恵はガックリと肩を落として「なんでよ……」と呟いていた。


ムキにならなくてもいいのに。

変に噂されるよりも平和に過ごせるし、信じてもらえないのも悪くないと私は思っていた。

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