肉食系御曹司の餌食になりました
姫を助けたナイトにご褒美を

◇◇◇

支社長とキスしてしまった日から仕事に追われる日々が続くこと、ひと月ほど。

いくら札幌と言えども七月に入ると日射しの強さは増して、今日は二十五度を超える夏日だ。

暑いのが苦手なので、早く夏が過ぎればいいと願う。いや、夏とは言わずクリスマスまで、あっという間に過ぎてくれないか。

そうすれば、こんなにも支社長と顔を合わせずに済むのに……。


十一時過ぎの支社長室には、私と彼のふたりきり。

彼は執務机に向かい、私が作成した大通公園の使用許可申請に関わる書類をチェックしているところ。

目を通し終えると「非常によくできていますね。さすが亜弓さんです」と褒めてくれて、それから立ち上がった。


「では、これを提出しに出かけましょうか」


紳士的な微笑みを浮かべ、「一緒に」と付け足す支社長。

その言い方に、私をからかおうとしている響きは感じられなくても、彼の手から書類を取り上げお断りした。


「私、ひとりで行きます。
支社長のお手を煩わせるほどの仕事じゃありませんので」


今年のクリスマスの企画だというのに、大通公園のひと区画を借りる許可はあっさり下りそうだ。

窓口は市役所とは別の建物内にある、みどりの管理課という場所になる。

私の知らないところで支社長が根回ししたらしく、前回一緒にそこの担当者に話を聞いてもらいに行ったときは、『麻宮さん、先日はどうもご苦労様でした』とその人が挨拶していた。

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