S系御曹司と政略結婚!?
“S”の内心


あれは3年くらい前のこと。

入社直後から社長専属秘書となり、責任重大な案件をいくつもを抱えていた俺は、日々忙殺されていた。

昔からよく知る社長は、俺に対して一般的な秘書業務よりはるかに高い能力と、指示以上の結果を出すことを常に要求してきた。

確かにプライベートな時間は皆無に等しかったが、秘書という肩書きで自由に働ける環境に感謝していた。

実のところは、2トップから将来的に役員昇格を入社前から約束されていたのだ。

曖昧な位置づけも特に気にならなかったし、自力で辿り着くかと奮起させられただけのこと。

——2トップの“本当の狙い”に気づいた日こそが、馬鹿なアイツとの出会いだ。

エリートと評された俺が初めて感じた誤算から、すべては始まっていたのだろう……。


アイツが入社する半年前のある日。

社長に所用で呼び出されたのか、会社を訪れたアイツとの初対面はその日だ。


「神野さん、ですよね?父がいつもお世話になっております。初めてお目にかかります、有川の娘の華澄と申します。
自宅でも神野さんのことを話していますよ。父や祖父が迷惑をおかけしていませんか?」

平身低頭に挨拶をする華澄は、まさに美少女の称号に相応しい出で立ち。

ワンピースの下から伸びる、長い手足と真っ白な肌。年齢よりも落ち着いた雰囲気で、長く綺麗な黒髪を結っていた。

だけど、その笑顔はやっぱり若さに満ちてキラキラしていた。

名前のごとく、華やかな雰囲気を纏い、澄んだ瞳が強さを秘めていた。印象的なその姿は今でもよく覚えている。


< 69 / 123 >

この作品をシェア

pagetop