エースとprincess
2.「俺も自分で言ってて変態かよって思った」
 フローリングにじかに座りこみ、無言で見つめう二十二時過ぎ。ふたりのあいだに遮るものはない。簡単にお互いに触れることができる距離にあった。私も瑛主くんもなにも言わなかった。そうして密やかに呼吸をつなぐこと数十秒、そのとき、数回の電子音が聞こえてきて――。

「洗濯、終わったみたいだ」

 機械に呼ばれてすっくと立った瑛主くん、脱衣場へ颯爽と消えた。


 えっ……と? あのですね、もしもし?
 これだけ、これだけじっと見つめておきながら置き去りにするとか……とか……!!

「ありえないでしょ」
 拳を握りしめて打ち震える私。

「ひめさとー」
「は、はいっ?」

 つぶやきがあっちまで聞こえたのかと焦ったけれど、そうではなかった。

「これさ、全部乾燥機にかけていいやつだった?」
 脱衣所のドアから顔を覗かせて、瑛主くんはそんなことを聞く。

「あー、いいかな? なんかごめんね、私のまで」

 雨に濡れた衣類を、私のぶんも一緒に洗濯してくれたんだっけ……って、下着!
 慌てて脱衣場の洗濯機まで猛ダッシュ。間一髪のところで洗濯ネットごと瑛主くんの手から取り上げた。後ろ手に隠して、目に触れないようにする。ちなみに今身につけている下着は持参していたものだ。ナオのところにいつでも立ち寄れるように、バッグに換えを常備していたのが幸いした。

「あ、ありがとうね。助かりましたです」

「俺は別に。洗濯機がしたことだから」

 そっけなく真顔で言われる。なんだろう今のは。洗濯機に感謝しろって意味、なんだろうか……。
 変だなあと思いながらも「ありがとうございましたー」と一応洗濯機に向かって言ってみた。直後、背後で吹きだされた。

「ねえ、実は酔ってる? おもしろいんだけど」
「違う、今のはそういうんじゃなくて! あなたが言うから! だからそうしただけで!」
「洗濯機にお辞儀する人、初めて見たよ」
「いやそれは嘘だ。そんなことするもんか」

 この人、タチ悪い。これはと思った人をとことんからかうタイプだ、絶対。
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