エースとprincess
5.「お持ち帰り宣言きた!!」
 見るのとやるのとでは大違いだった。専用レーンに入って所定の立ち位置でバットを構えてみると、飛んでくるボールの速いこと速いこと。何球かバットに当てたけど、前にはじき返せたのは最後の一振りだけだった。
 次は僕の番だね、と言うサワダ(仮)さんに道具一式を渡し、瑛主くんの脇に並ぶ。


「全然だめだったー」

「お疲れ」

 打席に立つサワダ(仮)さんを眺めつつも、まだ気持ちがそっちに切り替わらない。興奮冷めやらぬ、ってやつだ。

「楽しかったしすっきりした! あれだね、もっと遠くまで打てたら気分いいんだろうなあ」

「怖くなかった?」

 瑛主くんに問われて初めて考えた。硬いボールが高速回転しながら速く飛んでくる。当たったら痛そうだけど、そんなことよりも……。

「怖さよりもやってみたさのほうが強くて、あんまりそっちは気にならなかったです。えっ、怖いんですか? 自信ありそなこと言ってたのに」

「そんなんじゃない。思い切りがいいなと思っただけ」

「……私が?」

 そう、と答える瑛主くんはあくまでもサワダ(仮)さんを注視している。打撃音に混じって何回か華やいだ効果音が聞こえてくる。サワダ(仮)さんの向こうに入っている人が大当たりを連発しているようで、私はサワダ(仮)さんではなくついそっちの人に目を奪われていた。


「これ持ってて」

 しばらくして瑛主くんは、渡すというより押しつけるように、着ていたジャケットを脱いで寄越した。
 鞄と一緒に椅子に置けばいいのに、と思わなくもなかった。なのでぼんやりしている私の腕にジャケットが収まってしまい、返すのも置くのも不自然になった。

「お守り」

 瑛主くんはそんな私の肩を軽く叩き、今打っているあの人のほうに目だけを流してみせた。そして私を見おろすと口角をあげた。

「お姫様がさらわれたら困る」


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