傷痕~想い出に変わるまで~
追憶
光と再会してから10日が過ぎた。

連絡しようかどうしようかと悩んでいるうちに、あっという間に時間が過ぎていく。

光が自販機の点検や補充に来る日なんてもちろん知らないし、社内で顔を合わせることもなかった。

昨日の昼休みに廊下で門倉と顔を合わせた時、まだ連絡していないのかと聞かれた。

していないと答えると、早いとこ腹くくれよと言われた。

言うのは簡単だけど、それには勇気がいる。

思いきって電話してみようと名刺を用意しても、スマホを握りしめたままあきらめたことも何度かあった。

このままなかったことにしてしまおうか。

どうせ光は私の今の携帯電話の番号を知らないし、社内で顔を合わせないようにすれば今までとなんの変化もない。

逃げてるみたいでちょっと情けないけれど、そうするのが一番いいような気がする。

うん、そうしよう。

光とは会わないことに決めて、名刺を引き出しの中にしまい込んだ。


昼休みが終わる10分前、門倉がコーヒーを配達に来た。

「篠宮課長ー、コーヒーお持ちしましたー。」

頼んでもいないのに、どんな風の吹き回しなんだろう?

差し出されたカップをおそるおそる受け取る。

「法外な料金取ったりしない?」

「コーヒーはおごってやるから今日は晩飯付き合え。」

「それは別にいいけど…。」

わざわざそれを言うためにコーヒー持ってきたの?

何か企んでるとか?

とりあえずコーヒーは飲みたいと思ってたからいただいておこう。


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