鬼上司は秘密の恋人!?
 


石月さんの家を出て、祐一とふたりで長尾さんの用意してくれたアパートに移り住み、二週間が過ぎた。


石月さんとは一切連絡を取るなという長尾さんの言葉に従い、仕事はやめ、電話番号を変えた。
祐一の通っている幼稚園も退園し、今は違う場所の保育園に通っている。
今は平日の昼間だけ、近所のスーパーでレジ打ちのパートをしている。

祐一の実の父のはずの宮越さんからは一切なんの接触もなく、長尾さんは時々不意打ちで様子を見に来て、私がちゃんと約束を守り石月さんと連絡を取っていないかを確認しにくるくらいだ。

以前住んでいたアパートが火事になる前と、同じような生活に戻っただけ。
アパートの家賃は払わなくてすんでいるし、月々決まった額を長尾さんが振り込んでくれると約束してくれたし、以前よりもずっと余裕のある安定した生活ができている。


……なのに、どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。

石月さんに家を出ると言った時のことが、どうしても頭から離れなかった。

『出てくって、どうして?』

低い声でそう問われて、何も言えなかった。
あのタイミングで出ていくなんて言い出した私に、石月さんはどう思っただろう。

できるなら、私も好きだと言いたかった。
隣にいられて幸せだったと伝えたかった。

だけど、そんなことを言ってしまえば、『じゃあなんで出ていくんだ』と追求されてしまうだろう。
< 154 / 199 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop