鬼上司は秘密の恋人!?
 

私が編集部の隅にある応接セットでお茶出しをしていると、若手編集者の鳴瀬さんが困った様子でフロアに入ってきた。
石月さんの姿を見つけると、今にも泣き出しそうな顔で駆け寄ってくる。

「石月さん……!」
「どうした?」

書類に目を落としたまま聞かれ、鳴瀬さんは石月さんのデスクの横でうつむいて唇を噛んだ。

「それが、川村さんがやっぱりエッセイの連載を断りたいと言ってきて……」

眉を下げ、途方にくれたようにそう言う。
川村さんという言葉に、みんなの視線が鳴瀬さんに集まった。
次の号から新しくコラムの連載を執筆してもらう予定だった、元バレーボールの女子選手だ。

「どうして?」

石月さんが視線を上げ、短く問う。

「俺が、ダメ出しを繰り返したので、自信をなくしてしまったようで」
「じゃあお前のせいだな。土下座でもしてこい」
「土下座しても書いてもらえないと思います。考えてももう、言葉が出てこないって」
「なんでそんな風に相手が萎縮したんだ?」

苦しそうに吐き出す言葉に、石月さんが冷たい視線を返す。

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