次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「一緒に見て欲しいんじゃないのか」

 たしかに、これは私が言い出したことだ。だからって。悩んでいたら手を引かれたので、私は渋々と再びソファに腰掛ける。

 しかしどう頑張っても画面を直視できない。そこには二人の幼い姉妹が映っていた。そう、幼い頃の私と朋子である。

 たまたま祖母が出演する映画に、孫役が幼い姉妹ということで、話題集めや、監督と個人的に祖母が親しかったこともあり、実際に孫である我々が起用されることになったのだ。

 朋子はこの映画をきっかけに子役としてデビューすることになった。出番はそんなにないが、のびのび自然に演じている朋子とは違い、私はというと台詞もぎこちないし、お世辞にも演技が上手いとも言えない。

 この頃から二重瞼の朋子の顔立ちは整っていて、目を引く。後にも先にも私が映画に出たのはこれだけだ。

 それにしても。

 私はちらり、と左手に目をやった。先ほど直人に掴まれた手は、今もソファの上で握られたままだ。もう部屋に戻るのは諦めたから、離してくれてもいいのに。

 そう思いながら伝わってくる体温に私の心臓の鼓動は速くなる。もしこの手を握り返したら、どうなるんだろう。

『いいかい、あの神社にだけは行ってはいけないの。守れるわね?』

 懐かしい祖母の声が台詞とはいえ、耳に届く。なんだかじんわりと胸が熱くなった。社長と約束を交わしたおばあちゃんは、今の私を見たらなんと言うだろうか。
< 124 / 218 >

この作品をシェア

pagetop