次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「藤沢くん」

 名前を呼ぶと、藤沢くんが反応を示した。直人は少し驚いた顔をしている。直人ほど魅力的な笑顔は作れないが、私はなんとか笑った。

「今度、朋子が主演の映画、公開になったら見に行ってやってね!」

 今日は本当にありがとう。と付け足すと、藤沢くんは、やっぱりどこか困ったような表情を見せて軽く片手を上げてくれた。頼子をはじめ、口々に別れの挨拶を告げられ、私はホテルを後にしたのだった。

 栗林さんの運転する車の後部座席に二人で乗り込み、私はようやく口を開いた。

「わざわざ迎えに来てくれたの?」

「言っただろ、こっちで仕事だったんだ」

 栗林さんが運転するところを見ると、本当なのだろう。そこでミラー越しに栗林さんと目が合う。待たせたことを詫びると、栗林さんは微笑んだ。

「たしかにこっちで仕事でしたけど、晶子さまを迎えに行くために、わざわざ予定を切り上げていらしたんですよ」

「栗林!」

 制するように直人が強く名前を呼ぶ。私は目をぱちくりとさせたまま直人を見ると、わざとらしく逸らされた。

「また、酔っ払って帰って来れないなんてことになったら困るだろ」

「今日はそんなに飲んでないよ!」

 少しむくれて返したが、心臓が速めにリズムを刻み始める。それも本当だろうが、同窓会に参加することをわざわざ心配して、迎えに来てくれたんだろうか。私のために。
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