結局、連絡が出来ないまま、気づけば時計の針は午後九時を指そうとしていた。簡単に夕飯を済ませた私は、勝手に違う映画を観る気にもなれず、どこか手持ちぶさただった。

 まさかとは思うが、彼の早く、とはこれがデフォルトなんだろうか。あれこれ考えながら、先ほどから携帯をずっと気にしてしまい、勉強も手がつかない。今年は貿易実務検定のA級をとれ、なんて言われているがどうなることやら。

 こんな風に誰かに自分のペースを乱されるなんて。悶々としながら、九時を過ぎたら一度電話してみよう、とようやく心に決めた。文句のひとつでも言ってやろう。それぐらいしたってばちは当たらないはずだ。

 そのとき、手の中の携帯が震えて、私は急いで電話をとった。

「もしもし?」

『早いな』

 なんのことか、意味が分からなかったが、電話の相手は直人だった。

『悪い、早く帰る予定だったのに急なトラブルがあって』

 出端をくじかれる、とはこういうことを言うのだ。言おうと思っていた文句も先に謝られたら言えなくなる。

「いいよ、忙しいの分かってるから」

 彼と私とでは立場が違いすぎる。元々怒っていたわけでもないし、彼には大事なものがたくさんあるのだ。

 映画を観ることもそんなに急ぐことじゃないし、優先順位だって低い。そんなことは分かりきっている。そして、とりあえず電話を切ろうとすると、彼がまだ言葉を紡いだ。