直人は、なんだかさっきの仕返しと言わんばかりに、赤く潤んでいた瞳は、すっかりいつもの不敵な色を宿している。そして、私の方に体を寄せると、私の手の中にあったグラスの縁を軽く指で叩いた。

「それ以上のことをしておいて、今更?」

 私は顔から火が出そうなくらい、一瞬にして全身が熱くなった。なんてことない、私の動揺はあっさり彼に見抜かれていたらしい。

「いやいやいや、そういう言い方はやめよう」

 わざわざそんな含みをもたせた言い方をしなくてもいいではないか。そういう問題でもないのだけれど、この動揺を払い除けたくて、私は思いっきり顔をぶんぶんと横に振る。

 しかし直人は、さらに私との距離を縮めてきた。そっと頬に手を添えられて、ゆっくりと近づいてくる整った顔に私は、ぎゅっと目を瞑って俯いた。

 それからしばらく経ってみたが、予想していたようなことはなにも起きない。恐る恐る目を開けてみると、思ったよりも至近距離で直人がこちらを見下ろしていた。その顔は実に楽しそうだ。

「期待した?」

 私はとっさに言葉が出なかった。もう消えてしまいたいくらいの羞恥心が溢れてくる。今の彼の目に私はどう映っているのか。

 それを考えると、頭がショートしそうだった。期待したのか、と言われればそんなこともない。でも展開が予想できたのに拒むこともしなかったわけで。

 なにも言えず固まったままの私に、直人は相変わらずおかしそうに笑っている。そして、いつものように私の頭を撫でた。

「少しは俺のこと、好きになってくれたか?」

 その問いかけのおかげで私の頭は一気に冷める。私はなにも答えることができなかった。