イケメン富豪と華麗なる恋人契約
第一章 完璧な男性
若いときの苦労は買ってでもしろ――。

小学生向けのことわざ辞典でその言葉をみつけたとき、三輪日向子(みわひなこ)は思わず考え込んでしまった。


(その“苦労”……せめて、ローンにしてくれないかなぁ)


大きく息を吐き、辞典に突っ伏す。


「姉ちゃん、なにやってんだよ! 国語辞典はこっちだろ。ことわざ辞典で遊んでんじゃねーよ」


大人向けの国語辞典を日向子に押しつけ、偉そうにふんぞり返っているのは、下の弟、晴斗(はると)だ。

晴斗は商店街のクジで当たった女の子向けTVアニメのキャラクターエプロンを身につけ、フライ返しを手にしている。
エプロンは幼稚園から低学年向けなので小さめサイズ。晴斗は小学五年生にしては小柄で、一四〇センチにちょっと届かないし、女の子に負けないくらいかわいい顔立ちなので、変身して戦うヒロインのイラストが妙に似合っている。
多少の憎まれ口も、声変わり前だとむしろかわいく聞こえてしまう。

日向子はそんな感想を抱きつつ、国語辞典を受け取った。


「ごめん、ごめん。いっぱい辞典が並んでるから、つい、ね。でも、お友達から使わなくなったのをもらうって言ってたけど……こんなに? お礼しなきゃダメなんじゃない?」


国語辞典だけでも三冊、子供向けの漢字辞典、漢和、英和、和英、ことわざ辞典まで……。自慢ではないが、日向子が買ってやったものはひとつもない。

すると、晴斗はケロッとした顔で笑いながら答えた。


「俺が幼稚園に入る直前、火事で家が丸焼けになって、父ちゃんも母ちゃんも死んじゃって、高校を出たばっかりの姉ちゃんが俺と兄ちゃんを育ててくれてるんだ。って言ったら、クラスメートの母ちゃんがいろんなもんくれるんだぜ」

「…………あんたって子は」


日向子はなんと言っていいのかわからない。だが、晴斗の言ったことはまんざら嘘ではなく――。


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