世界が終わる音を聴いた

Day 1*君には聴こえているだろうか





目が覚めたのは、小さな物音が私の耳に届いたからだった。


その日の私は、ひどく疲れていた。
恐ろしく忙しかった日々を終え、ようやく早く帰ることができた今日。
まだ週の真ん中だと言うのに、すでに疲労困憊。
くたくたになった体を休めるために、倒れるようにベッドに沈みこんだのだ。
ふかふかの布団が柔らかく私を包む。
服の皺はこの際もうどうでもいい。
終業時間17時15分、会社を出たのは17時30分、帰宅時間18時ジャスト。
最近はずいぶん日も長くて、空は明るかった。
疲れていなければ寄り道でもしたくなるような気持ちよさがどこかに漂う空気だけれど、それらの一切を振り切って私は家路を急いだ。
お陰で目標時刻を5分縮めてベッドにダイブすることに成功した。

母が空気を入れ換えるためだろうか、窓を開けてくれていたのだろう。
頬を撫でる風が心地よく、さらに睡魔を連れてくる。
私はひとつ、大きく息を吐いた。

短大を卒業して、中小企業の事務職、いわゆるOLさんになってからかれこれ6年。
夏の盛りに生まれた私は、あと少しで27歳になる。
ついでに言うなれば、同日、彼氏がいなくなってから2年で、別の人が好きなのだと気が付いてからも2年経つ。
年々、無理が利かなくなってきた体は疲労がピークに達していたようで、知らずの内に、意識を手放していたらしい。


2年前の夏が、頭の中で蘇る。
彼から別れを告げられるのを私はどこかで待っていたのかもしれない。
離れていく彼の後ろ姿に涙もでなかったのに、側に居たあの人にどうしようもなく触れたくて触れたくて仕方がなかった。


―――そんなこと、できるはずもなかったけれど。


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