スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
第4章 恋はもつれて絡まって

「誰だか知らねぇが、お呼びじゃねえってんだ」



初めて彼に出会ったのはもう10年以上前のことになるんだなぁと、身動きもできないまま考えていた。

今この瞬間に何をすべきか判断する機能は、真っ白く麻痺している。


「久しぶりだね。きみは変わってないな。相変わらず少女みたいな格好をして。そういうのもかわいいが、もう少し大人らしい格好をしたらどうかと、ぼくがいつも言っていたのに」


完全な左右対称という、珍しい顔立ちをした人。

彫刻みたいな美形だと、初めはぽかんとして見惚れてしまったことを覚えてる。


中身も、顔立ち同様に完全っぽい人だった。

少なくとも、本人はそれを目指していた。

家庭環境は完全なるエリートだった。

官僚のおとうさまと、社長令嬢のおかあさま。

両親の望むエリート街道をまっすぐ進んでいく彼に、わたしはついていけなくて、別れた。


「ぼくが送ったメール、きみに届いていただろう? アドレス、あのころのままだったんだね。返信くらい、してほしかったな。まさか、メールの送り主がぼくだって気付かなかった?」


気付く気付かないの問題じゃない。

必死の思いで忘れたんだ。

彼のことを、恋愛感情そのものと一緒くたに、丸ごと全部。


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