できちゃった出産【ベリカフェ版】
 しかしながら、そういう先生の対応が私にはとてもありがたかったんです。私、本当に本当に正直に言いますと、心の底からなんて喜べていなかったと思うんですね。パニックと言ったら大げさですが、心の整理ができていない状態というか、喜ぶも何も、まだきちんと受け止めきれてないじゃん、みたいな。

 未知なるものへの漠然とした不安が途端に大きく膨らんでしまって。本当にふがいないのですが、そのときに「おめでとうございます!」と祝福されても、笑顔で「ありがとうございます」とこたえられたかどうかわからないと思うのです。だから、E先生の丁寧でいてさらさらーっとした態度が、とてもありがたかったのでした。

 それから一週間。風邪のようなだるさは相変わらずでしたが、それ以外に何か問題が起こることもなく再び受診の日となりました。夫は仕事だったので、私ひとりでの受診です。今回もまた診察の結果は問題なく、とりあえず一安心。

 私は思い切って先生に胸のうちを告白しました。先生が「おめでとう」と言わないでいてくれたおかげで救われたこと。漠然とした不安や衝撃のほうが大きくて喜べていなかったこと。そんな自分がふがいなく、“(お腹の)中の人”にも申し訳なく思っていること。

 先生は一瞬だけ「おやまあ」という表情をした気もしますが、やっぱりいつもの冷静かつ穏やかな表情で言ったんです。

「同じようなかた、意外といらっしゃいますよ?」

ちょっと……いや、かなり驚きでした。

「皆さんそれぞれに、お気持ちやご事情があるわけですから」

先生の冷静さと慎重さ、そして……繊細さ。やっぱりE先生のところを訪れてよかったと思いました。我ながら賢明な判断をしたなぁ、と。

 ところで、理知的で冷静そうな夫ですが、ふたりで病院を訪れた日の夜にこんなことを言っていたんです。

「なんというか……自分はやっぱり、けっこう浮かれているのかもしれない」

私、思わず笑ってしまったんですよね。この人ってやっぱりおもしろいなぁと思って。浮かれている自分を冷静に分析した客観的な評価、みたいな(爆) 浮かれるというのは我を忘れることだと思うのですが、何なんでしょうね(笑)ちょっと照れていたんですかね。

もう一緒に暮らしてずいぶんになるのに、彼の意外な一面を見た気がしたのでした。

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