「碓氷、お前最近遊馬と仲いいらしいな」
「初耳なんですが」
「そこでだ!」
「話を聞いてください」
さっきから全然話を聞いてくれないこの人は、私のクラスの担任である江野和貴(こうの かずき)先生。
顔は整っているのにネクタイは緩めていて、黒の短髪は寝ぐせなのかところどころはねているせいでだらしなく見える。
もったいない。だから結婚できないんだ。
「今、失礼な事思ったろ」
「いえ、何も。で、そこで何なんですか?」
これ以上聞かれても厄介なので話を戻す。
「そうだった。お前に遊馬のお守り役を任命する」
「えっ?」
貴重な昼休みに何の話かと思えば・・・。突然の話で頭が追い付かない。
「という事で、まずはあいつを授業に出席させろ」
「先生、私はまだ引き受けるとは・・・」
「多分この時間だと裏庭だろ、行ってこい」
「いや、待ってください。何で私なんですか?」
先程も否定した通り、特段仲が良いわけでもなくいいクラスメイトという感じだ。
なのに何故?
「何でってお前が学級委員だからに決まってんだろ」
そうだった。この人は絶対に無理な事は頼んでこないのに、自分が面倒だと思う事は頼んでくるような変わった人だった。
でも、先生が頼んできたって事は私に出来ない事じゃないって事だよね?
うん。そう受け取る事にしよう。
相変わらずの横暴さに呆れながらも、ここで逆らうとあとが怖いので今は大人しく言う事を聞くことにする。
「分かりました。これ、貸しですからね」
「はいはい、分かったからさっさと行け!」
そう言って職員室から追い出される。
まったく・・・。
色々と言いたい事はあるが今は飲み込み、裏庭へと向かう。