ダブルベッド・シンドローム
同居






そのとき、慶一さんと私は、根本的に合わない人間なんじゃないかと、初めて不安になった。

それは彼が冷蔵庫内部の一角に、薄いブロック型の栄養補給食品を一週間分と、あとそれと同じ数のエナジーゼリー飲料を規則正しく並べていると知ったからだった。

彼は朝それを各一つずつ、五分とかけずに口に入れて、歯を磨いた後にミントのガムを噛む。

そのあと、ブロック型の箱にガムを含め出たゴミをすべて詰め込んで、それを出掛ける直前に、カツンとゴミ箱に捨てていくのだ。

それは毎日変わらないらしい。

黄色いパッケージの箱型のゴミは、同じゴミ箱にすでに3つ溜まっていた。

一緒に暮らすことになって初めての朝に、それを目の当たりにしたのだ。


「いってらっしゃい、気を付けて。慶一さん。」

「いってきます。菜々子さん、夕食はどうされますか?僕は夜遅くなるので、北山さんに頼んでおきましょうか?」

「い、いえ、いいです。近くにスーパーがあったので、それで。」

「そうですか。では、いってきます。何かあれば携帯に連絡を下さい。」

「はい。」



この結婚、いや正しくは結婚に先立った同居を承諾したときには、心が躍ってしかたがなかった。

相手のことなどたいして知らなくとも、お金持ちで格好いい人と暮らして、そのくせ自分は引き続き職を探すこともしなくていい、そんな美味しい条件は他になかった。

しかもなぜかこの人は私の希望ばかり優先してくれるし。

昨日荷物を持ってこの部屋にやってきたとき、殺風景な部屋を見て、花を飾ってもいいですかと聞いたら、夕食に出掛けたついでにフラワーアレンジメントの雑誌を買ってくれた。

本当は私が趣味でやっているブリザードフラワーを飾りたくて言ったことだったのだが、雑誌を見たら自分の作品よりも飾りたいものがたくさん載っていた。

この部屋を私好みに変えることを許可してくれた慶一さんに、なんて素敵な人なのだろうと昨晩は感激していたのだ。

繰り返すが、とにかく、昨日ここへ来たときの私は、ものすごくウキウキだったのだ。


慶一さんが仕事に出掛けてすぐに、私はユリカに電話をかけた。


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