クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


『一度壊れたモノは、元通りには戻らない。どんなに元のカタチを望んで努力したって、ヒビはなかったことにはならない』

つけっぱなしになっていたテレビが言う。
見れば、いつの間にかニュースは終わり、ドラマが流れていた。

沈んだ表情で静かに言った淑女が、ゆっくりとこちらに視線を向ける。

ただ、カメラを見ているってだけなのに。
私に言われているような気がした。

言われなくたってわかってる。
どんなに望んだってもう、無理だってこと。

それに……私があの人に会えることなんて、もうないってことも。


「うーん。俺、女の子は可愛くて大好きなんだけど、どうしても本気になれないんだよね。だから、真面目に付き合うとかはできないけど。それでもいいなら」

――つまり、ライトな身体の関係だけだったらいいと、そういう意味だろうか。

そんな言葉を受けてうなづく女の子はどれくらいいるんだろう、と思いながら、告白劇場と化したコンビニから出た。

七月末。梅雨も明け、すっかり夏と化した空気はカラッとしている。
ただ、暑い。

毎年毎年最高気温を更新しているけれど、地球は大丈夫かな、と本気で思う。

私が高校生だったころは、もう少し暑さも緩かった気がするな……と思いながら、ふぅと息をつき、オレンジ色の混じり始めた空を眺めた。

目の前には大きな車道が広がっていて、たくさんの車が行き来している。

コンビニのなかでは、未だ告白劇場が続いているようだった。

私だったらどう返事をするかな、と考えて……空に浮かんだ人物に目を伏せる。

恋愛経験は、そのひととしかないわけじゃないのに。

こういうとき頭のなかに浮かぶのは、決まってそのひとで……そのたび、こりもせず切なく鳴く胸にキュッと唇に力を入れた。



< 2 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop