「めぐー」と呼びながら八坂さんが登場したのは、それから五分ほどがたったときだった。

八坂さんは私の前に立ち、倉沢さんを見るなり眉を寄せる。

八坂さんも、Yシャツを腕まくりして、ネクタイを緩めている。
倉沢さんと同じような格好だ。

「なんだよ、倉沢もいたのか。え、支店出てからずっとここにいたのか? おまえ暇なの?」
「仕事でストレス溜まってるからって俺にツラくあたって解消すんのやめてくださいよー。俺だって同じ量溜まってんですから」

「嘘つけ。おまえはその顔つかってヘラヘラ適当に営業かけてるだけだろ。昼飯買いにスーパー行くと、おまえ必ずどっかの品のいいマダムに捕まってんじゃねーか。あれ、顧客だろ」

〝品のいいマダム〟という言葉に反応していると、倉沢さんが笑う。

「あー、顧客ですね。なんか、俺の担当地区ってあのスーパー使う人多くてよく出くわすんです。
で、顔合わせると声かけないわけにはいかないから、話しかけるんですけどね。そうすると、昼飯一緒にどうかとか、お茶しにこないかとか。最近の奥さんは積極的で困ります」

「いや、それおまえにだけだから」と呆れたように言った八坂さんが倉沢さんを見る。

「まぁ、冗談は抜きにしても、もうちょっと線引きしないとマズいんじゃねーの。旦那の不満とか律儀に優しく聞いてたら勘違いされるだろ。そういうとこから、魔が差して不倫とか始まるって聞くし」

真面目に言う八坂さんに、倉沢さんは困ったように笑った。

「いや、俺、そこまでの年上はそういう興味ないですし。線引きは俺もそうしたいんですけどねー。なんか、よっぽど話す相手が欲しかったのかなとか思うと、どうも断れなくて。
それに、でかい取引先ほどそういう感じだから、機嫌損なうわけにもいかないし。社長夫人とか」






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