眼鏡とハンバーグと指環と制服と
第十六章二度と訪れないだろ、って思ってた
春休み終了目前。
塾から帰ってきたら、家の前に女の、人。

「うちになにかご用ですか?」

「ねえ。
ここ、夏生の家よね?」

「……そうですけど」

……なにこの人?
名乗らないし、なんかやな感じ。

派手な服、赤い唇、長い、赤い爪。

……それに。

幼稚園くらいの男の子。

「夏生、いないの?」

「……仕事に行ってます」

「ふーん。
じゃ、上がって待たせてもらうわ」

「え、あっ、ちょっと!」

私の返事なんか待たずに、女の人はずかずかと家に上がり込んできた。

……なに、ほんと。
夏生、とか馴れ馴れしいし。
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