眼鏡とハンバーグと指環と制服と
第三章少しでもバスが遅く来ることを願ってた

あれから。

なつにぃに大学のこと、聞いてみた。

友達も増えるし、高校のときと違ってできることも増えるから楽しいよ、っ
て。
まあ僕は子育て忙しくて、それどころじゃなかったけどねと付け足されて、ち
ょっと胸が痛んだ。

……なつにぃはずっと、私のお兄ちゃんでお父さんだった。
授業参観とか運動会とか、親が来るような行事は積極的に参加してくれてた。

……それでよく、同級生にはからかわれたけど。

でも、なつにぃは私の自慢だった。


進路のことは結局、「行きたい大学」じゃなくて「行ける大学」から考えたら
どうかな、ってその夜、なつにぃはたくさんの資料とパソコンを私の前に置い
た。

「行ける、大学……?」

「そう。
ゆずちゃんの成績だったら、ちょっと頑張ればこことか、こことか」

なつにぃが示したのは家から通える県立大と、通うのはちょっと無理な県外
の、私立の文学部。

「文学部って亜紀ちゃんが目指してるとこだよね?」

「そうだねー」
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