まさか…結婚サギ?

憂鬱の森

「じゃあ、帰るよ」

紺野家へ着いて、貴哉はそう麻里絵に告げた。

「由梨さん、また来てね」
「あ、はい」

微笑んで返事をしたが…。
何と言うかこれほど育った世界が違ってうまく行くのか…。まさか、ここでそんなことは言えずうつむきがちの返事になってしまう。

洸介に付き合ってるのは貴哉で、関係ないなんて言ったけれど…。貴哉の言う…結婚となると…戸惑いは大きい。

詐欺なのでは、とはじめは思ったりもしたけれど、貴哉の事を知れば知るほど、どうして彼と由梨が付き合っているのかすらおかしいことのように思える。
貴哉にとって、由梨を例えば弄ぶにしても何のメリットもないように思うし、わざわざ女性を遠ざけていたらしいのに、由梨には近づいてきた…としか思えない。

(本当に…少しの事で、私の事を好きになるなんてある?)

「由梨?なに考えてる?」
「あ、えっと…やっぱり。色々と不思議なんです…昔会ってたこととか…」
「…たまたま、だろ。良くあることだ。昔の同級生に会って、付き合うとか聞いたことあるだろ?」
「ああ、そうですね。確かにドラマとかでもありますよね。そっか…」

「家の事なら、気にするな。そのかわり親の会社も財産も兄にいくはずだ。だから、受け継ぎもしないしあてにもしていない。…由梨は、そういうのを欲しいと思うか?」
「欲しい?」
「御曹司の俺の方が良かったかって事」
由梨はぶんぶんと首を振った
「普通のリーマンの貴哉さんがいいです」
「よかった」
貴哉はそう言って笑うと、由梨はつられて笑みを返した。

車は順調に進み、夜には由梨の家に着いた。
「貴哉さん、上がっていくでしょう?」
「いや、玄関まで送ったら帰るよ。…さすがに連日だと、由梨もしんどいだろ?」
くすっとまた、黒い笑みを見て由梨はゾクリとさせられる。
荷物と、麻里絵からの手土産を持った貴哉が一緒に花村家の玄関まで一緒に歩く。

「おかえりなさい、由梨。貴哉くん、今日は泊まらないの?」
美香子がそう、由梨の予想通りの言葉を言った。

「今日は帰ります。家の事もたまにはしないといけないので」
「あら、そう?」
「はい、勝手に実家に泊まらせてすみませんでした」
「いいのよ、貴哉くんのご両親と由梨は問題なかったかしら?」
「はい。もちろん」
「良かったわ。また、待ってるわね貴哉くん」
「ありがとうございました。これは実家からです」
「あら、美味しそう。ありがとうと言っておいてね」

貴哉が車に乗り、去っていくのを見送ってから由梨は居間に入った。

「はい、由梨。お茶でも飲みなさい」
「ありがとう、お母さん」
「…」

正面に座った母を見つめ返す。
「どうかしたの?」
「色々と…」
「色々と…ギャップというか…ありすぎて」
「うん」
由梨自身、整理がついてない。
「あのね、貴哉さんの家っていうか、親って言うか…connoグループの社長さんなんだって…。なんていうか本当に…セレブっていうの?世界が違うの」

「…そうか…で、由梨はその別世界の彼とやっていけるのかが、心配なのね?」
「…うん、まぁ…何もかもが、どうして私なんかを?って」
「お父さんもお母さんも、今からどう頑張っても、セレブに由梨の事ををしてあげられないけど、由梨が貴哉くんとお付き合い続けて結婚するなら、全力でサポートしてあげたいし、もし、その事を気にして別れるなら、由梨を慰めてあげる。お母さんたちはいつでも、由梨の味方でいたいの」
「…うん…ありがとう」
ジンとして、すがりたくなる。
「由梨…驚いたのね…」
「うん…とっても。いい人だったよ…貴哉さんの家族。でもね…結婚って。やっぱり二人だけの、事じゃないよね…お姉ちゃんたちを見てると、本当にそう思うの」
「そうね」
「はぁ…家ってやっぱりホッとする…」
家、もだが、きっと母の存在が落ち着かせるのだ。
由梨の顔を見ながらクスクスと美香子は笑うと
「でも、connoとはねぇ…。お父さんが驚くかも」
「どうして?」
「お父さんはグループ傘下の会社の代表取締役よ」
「え?」
「知らなかった?」
「うん。ていうか、お父さんが代表取締役っていうのも知らなかった」
「亜弥にも由梨にも、お父さんは言わないものね。仕事の話」
クスクスと母が笑っている。


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