まさか…結婚サギ?
嵐はすぐそばに

貴哉's office ④

年始、またいつものように会社は始まり、正月明けの優菜はあくびを噛み殺しながら、出勤した。

「加島さん加島さん」
同期の七瀬 羅来(らら)が優菜の腕を掴んだ。

「これ、見て」
「うん?」
見せられたのはスマホの画面に写った写真。
そこには紺野 貴哉と、その彼女の由梨が寄り添うように歩く姿。初詣なのか由梨は着物に白のストールという可愛らしい姿で写っていた。カメラ目線ではないので明らかに隠し撮りかと思われた。

「これがどしたの?」
「どしたの?じゃないでしよ!あの、紺野くんに恋人って」
「うーん。なんでそんなに気になるの?ていうか、隠し撮りの方が気になるけど」

「だって、あんな風に女子を遠ざけておいて、なのに普通に彼女がいるとかって~。顔はいいし、仕事は出来るし将来性抜群なのに…。みんなもっとあの性格にめげずに積極的にいくべきだったかななんて騒いでるよぉ~」
羅来は悔しげに話している。
すでに知っている優菜も確かに最初は衝撃を覚えたものだが、いくら冷血な男だと言っても、人間らしい感情があるのだと今では思っている。

「ま、私は顔がいくら良くても、あんな黒い男は嫌だけどな」
羅来は表情を引き締めると、そう言った。

「…だよね」
そこには心から同意する。

「多分さ、紺野くんだから大丈夫だと思うけど、三木さんたちがいやがらせしそうな雰囲気だよ」

三木さんたち…というのは、貴哉に『いくら払う』と言われた張本人たちである。
人事部の彼女たちは、妙に社内の事に詳しくそれゆえに影響力もあるのか、彼女らの知る情報は瞬く間に広まる。

「たぶん、この写メもすごく回ってるよ」
「へぇ…。みんな暇だねぇ」
「優菜は毎日見てるから。顔だけ見たらすごく格好いいでしょ」
「あの、腹黒い笑顔とか見てるともう、鬼にしかみえない」
優菜のきっぱりとした言い方にら羅来はにやっと笑みを返した。

優菜が、席に着くと貴哉はすでにメールチェックから始まり仕事を開始していた。
キリッとした表情でブルーライトカットの眼鏡をかけてPCを操作していると近寄りがたく、写メ回ってるよ、とも言い難い。

「紺野さん、紺野さん」

そんなバリバリと仕事に集中している貴哉に悠太は声をかけている。
(勇気のあるやつだ...)

それを横目に優菜は自分の机に置かれた貴哉からの指示の付箋のついた書類をチェックして仕事を始めた。

「紺野さんと、由梨さんの写メ。めっちゃ回ってますよ」
ちらりと悠太のスマホを一瞥すると
「...あの、女たちか」

心当たりがあったのか、そう一言呟いたきり貴哉は気にせずに仕事を続けている。

デスクの電話が鳴り、貴哉は応対している。
「...客?こっちにあがるって?」

そう言い通話を終えると、営業課の入り口に

「貴哉!」
と、女性の声が響く。

優菜が見ると、モデルかというくらいの美人がじゃーん。と立っていた。

「…出たな、マングース…」

(マングース?マングースって言ったよね?)
舌打ちをしながら、彼女をみた貴哉は画面から目を離さずに
「お前はバカか、俺が忙しいのがわからないか?」
マイナス20度のブリザードが美女に向かっている。

「この、私が!わざわざ来てあげたんでしょ?感謝しなさいよね」
「相変わらずの猛獣ぶりだな。そもそもお前のいい加減な発言のせいでこちらは面倒になっている」

「小賢しい貴哉には、ここですぐに私の相手をする方が、早く面倒が避けられるとわかるはずだけど?」
「5分待て」

貴哉は画面から離さずにそう言った。

彼女は5分と言われたのに、ツカツカと歩み寄ると、バン!とキーボードに手を置いた。

「生意気。貴哉のくせに」

と、顔を近づけている。

絵面だけ見ていると、美男美女のラブシーンのようだが、優菜には龍虎の睨み合いか、蛇とマングースのようにみえた。うん、確かに貴哉のマングースというのは、彼女の内面を表してるのかも知れない。

「ちっ」

貴哉はぐいっと彼女を押し退けると

「少し、出てきます」

「お、おう」
課長の黒川がおののきながら返事をする。

「そうやってすぐに立てば良いのよ。相変わらずイケてない」

謎の美女と貴哉は連れだって外に出ていったのだった。姿だけを見ていれば本当に目立つお似合いの容姿をしている。

「…だ、誰なんですか?」
嵐が一瞬の間に来ては去っていったような雰囲気の中の悠太の声に
「さぁ…」
と優菜も返事をした。

謎の美女が誰なのか気になったのは確かだけれど…。
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