テンポラリーラブ物語
第六章 ゴーイング

 8月もとうとう終わりに近づき、なゆみはしみじみしてしまう。

 デスクの卓上カレンダーを見つめ、大きく赤で丸をつけた8月31日を感慨深く見ている。

 川野が付けた印で、その日に「斉藤最後の日」と小さく記してある。

 その日で辞めるという意味だが、地球最後の日のような滅亡の縁起悪い響きにもとれた。

 しかし、気にかけていてくれているという点では、そんな印でさえ有難く思えた。

 その31日が次の日のことであり、四ヶ月という短い期間で大して働いたとはいえないが、いざここを辞めるとなると寂しさが生じてくる。

 大半は仲良くなった人たちと別れるのが辛い気持ちだった。

 ミナや千恵は年上だったが、歳関係なく本当になゆみと仲良くなった。

 川野は相変わらず、厭らしいことを口走るが、おっさん独特の楽しみでもあり、なゆみをかわいがっている愛情表現の一種であったと解釈することにした。

 普通の人なら即セクハラで訴えられるが、川野に似た変質者も蹴ったことで鬱憤をはらしたので、なゆみはそれ以上深く考えるのはやめた。

 そして氷室──。

 一番お世話になった人でもあり、ここで働いていて一番忘れがたい人となった。

 氷室と別れるのがどこか辛い気もするが、海を越えたアメリカに一年もいけばきっと忘れられる。

 氷室もその頃には幸江と結婚しているかもしれない。

 今までがテンポラリーとして、楽しい日々を一緒に過ごしただけだと、この先の自分の未来だけを考える事にした。
 
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