別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~



——あの時の私はどうかしてたんだ。

ちょっと、優しく微笑まれたくらいで、惑わされてしまうなんて。

その日からの私は、図書館に行く度に、気付けば視線を巡らせ彼の姿を探していた。

一月後にようやく彼の姿を見つけた時には、思わず息をのんでしまった。


自分でも不思議なくらい、彼との再会を望んでいたんだと強く実感した。

同時に自分から彼に近付き声をかけていた。


その度胸と行動力は凄かったなと、今になると思う。

大して社交的な性格でも無いのに、ほぼ初対面の人に突然話しかけたんだから。

それがキッカケで奏人と付き合う事になったんだけど、私の見る目は全くなかった事が証明される結果になってしまった。


……あの頃から奏人は私の事を騙してたんだよね。

名前すら偽っていたんだから。
優しい笑顔で、なんて酷い事をするんだろう。

穏やかに過ごすはずだったのに、またイライラが湧いてきた。

怒りがパワーになっているのか、買い物袋と借りた本の重さも感じないくらい、早足でアパートへの道を歩いて行く。


でも、夜になると怒りは悲しさに変わって、私はまたベッドの中で泣いてしまう。

自分でも驚く位の不安定さ。
失恋で落ち込んでいるってより、きっと詐欺被害のダメージが大きい。

いつになったら心が休まるだろう。
早く忘れてしまいたい。

そう思いながら泣き疲れて眠りについた。
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