別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
でも、釈然としないけれど、奏人の連絡を待っていたのは本当だ。

許せないと思いながら何度もスマホを確認してしまっていた。
自分から別れを告げたくせに、連絡が全然来ない事で、苦しくなってベッドの中で何度も泣いた。

私……何がしたいんだろう。
もう自分が分からない。

「理沙、ここではこれ以上話せないから場所を移そう」

「……」

「部屋で待っていて、一時間後に行くから」

部屋って言うのは、奏人が住んでいたアパートの事だ。

私のアパートと会社の中間の駅に有り、私も何度も出入りしていた。でも……。

「あの部屋は偽の部屋なんじゃないの?」

奏人の本当の家は、この会社の社長の家なんだから。
嘘を吐かれていた事実を再認識して悲しくなる。

そのせいで冷たい声になった私を、奏人は漸く解放した。

ホッとしているのと同時に、寂しく感じている自分がいる。

「あの部屋も俺の家だから。もう理沙に偽りを言うことは無いから信じて欲しい」

奏人は部屋の鍵を私に差し出しながら言った。

「信用なんて、もう出来ないよ」

そう言いながらも、私は鍵を受け取ってしまう。

奏人は安心した様に微笑んで、「直ぐ帰る」と言い会議室を出て行った。
< 30 / 208 >

この作品をシェア

pagetop