別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
私が働くのは、 子供向け玩具メーカー さくら堂。

さくら堂は国内最大の玩具メーカーで、都内に自社ビルを構える活気にあふれた会社だ。

その中で私が所属しているのは、国内営業本部、営業一課。

営業部と言っても私の仕事は、営業活動ではなく、経理関係を含む部署内の事務手続。
慣れてしまえば、そう難しい事はない。

毎朝九時になると朝礼が始まる。これがちょっとめんどくさい。毎日伝達事項なんて無いんだから、週一回位でいいんじゃないかな。
学生の時の友達の会社は、朝の朝礼自体無いって言ってたし。

そんな事をやる気なく考えている間に、部長の話が始まった。

「最近は対企業への詐欺行為も増えているそうです。上司を装って緊急な送金を促す事例も有ったそうです。皆さんも不審な電話など受けた際は落ち着いて対応して、内容を私に報告して下さいね」

恵比寿様の様なふくよかな顔に満面の笑みを浮かべながら、部長は語る。


詐欺か……でもいきなり上司から送金しろって言われて、素直に応じる社員なんているのかな?
私だったらあり得ないわ。どう考えても怪しいし。
なんて思ったんだけど直後気付いてしまった。

つい昨日まで、一年間も騙され続けていたんだって事に。

抑えていた怒りが蘇り、イライラが募る。

奏人のあれも詐欺だよね?
結婚詐欺?

いや、金銭的被害は殆ど受けてないから詐欺とは言えない?

でも、私の貴重な一年間を台無しにした罪は重いはず。

昨日からストーカーかってくらい電話が来てたけど、当然無視。許すはずがないんだから!

怒りに燃えている私はよほどひどい顔をしていたのか、部長が声をかけて来た。

「中瀬さん、どうかしましたか?」

「い、いえ……あの、詐欺は許せないと思いまして」

「そうですね。人を騙す事は決してしてはいけない事です。我々はお客様の信頼を裏切らない清廉潔白な商売を続けましょう」

部長が仏の様な微笑みを浮かべて言い、今日の朝礼は解散になった。

< 7 / 208 >

この作品をシェア

pagetop